訪問介護の制度が直面する「空洞化」の危機:依頼が断られる現状と課題
令和7年(2025年)7月18日付『シルバー新報』で報じられた「訪問介護調査において8割の事業所で依頼断る 制度に空洞化の危機」は、在宅介護サービスの根幹を揺るがす深刻な状況を浮き彫りにしています。調査結果によれば、訪問介護事業所の約8割が人手不足などを理由に利用依頼を断っており、さらに人件費率が80%を超える事業所が3割を超えている状況も明らかになりました。
この状況は単なる「業務過多」や「一時的な混乱」ではなく、訪問介護制度が機能不全に陥る“制度の空洞化”とも言える危機です。人件費負担の増大と報酬の抑制、さらに職員の高齢化や定着困難が相まって、サービスそのものが成立しにくい構造ができつつあります。
特に中山間地や離島などの地域では、事業所そのものが消滅し、「訪問介護空白地帯」の広がりが現実の課題になってきています。
このような地域では、在宅支援の最後の砦である訪問介護が機能しなければ、地域包括ケアの構築自体が揺らぎます。

さらに、2024年度の介護報酬改定による基本報酬の引き下げで、多くの事業所が減収に追い込まれており、およそ5〜6割の事業所が収支の厳しさを実感しているとのことです。
経営的余力が乏しい中、人員を十分に確保できず依頼を断らざるを得ない状況が続いているのです。
では、どう打ち手を講じるべきでしょうか?
ひとつは報酬制度の見直し。人件費が重くのしかかる構造を是正し、持続可能な運営を支える仕組みと財政支援の強化が不可欠です。厚生労働省も訪問介護事業への支援措置を予算として打ち出していますが、さらなる充実が求められています。
また、人材確保と定着に向けた取り組みも重要。働き手の高齢化や離職リスクへの対応として、処遇改善だけでなく、働きやすい環境づくりやテクノロジー導入による負担軽減、地域での連携強化も進める必要があります。
この記事を通じて改めて感じたのは、訪問介護が抱える構造的な課題が、制度維持の必須条件を揺るがす事態にまで至っているという現実です。「制度がある=誰でも受けられる状態」ではなくなりつつあるこの現状を、多くの人に知ってもらい、社会全体で支え直す意識が求められます。
