使い慣れた車いすを失うとき ~【シーティング】の重要性~
先日、シルバー新報で「特養入所で車いす変更 転倒・骨折への影響あり」という記事が掲載されていました。筑波大学の研究によると、在宅から特別養護老人ホームへ入所した際、車いすが変わることで転倒や骨折のリスクが高まる可能性があるとのことです。
現場で働く私たちにとって、これは決して他人事ではありません。
車いすは“移動手段”ではなく“生活の土台”
在宅で暮らす方の多くは、介護保険の「福祉用具貸与制度」を利用して、その人に合わせた多機能型車いすやそれに合ったクッションを使っています。
しかし、施設入所時にこの制度の対象外となることで、施設が備える標準型車いすに変更せざるを得ないケースが多くあります。多機能型車いすやクッションなどは、購入するととても高価なものであるため、施設もなかなか揃えることができません。
しかしながら、車いすは単なる「乗り物」ではありません。
座る姿勢を支え、立ち上がりや呼吸、嚥下、排泄、視線の安定など、日常生活のあらゆる基盤を担っています。
この座位保持を専門的に整えることを「シーティング」と呼びます。
シーティングのずれがもたらす危険
車いすを変更すると、座面の高さ・角度・クッションの硬さ・背もたれの形状が変わり、これまで身体で覚えていたバランスが崩れてしまいます。
結果として――
1.体幹が傾き、左右どちらかに体重が偏る
2.骨盤が後傾し、前滑りやずり落ちが起こる
3.上肢の操作性が下がり、ブレーキや移乗動作が不安定になる
といった変化が生じます。
これらの“わずかなずれ”が、転倒や骨折だけでなく、褥瘡(じょくそう)や呼吸障害、嚥下トラブルなどにもつながりかねません。
シーティングは、安全性だけでなく「姿勢を通して生き方を支える技術」でもあるのです。
まとめ──“座る”ことは“生きる”こと
車いすが変わるだけで転倒や骨折が増える――一見小さな変化のようでいて、その影響は大きいものです。
そして、その背景には「シーティング」という視点の欠如があるのではないでしょうか。
人が一日の大半を「座って」過ごす高齢期において、
“どう座るか”は“どう生きるか”と直結しています。
使い慣れた車いすで、安定した姿勢で過ごせること。
それは安全のためだけでなく、その人らしい暮らしを支えることでもあります。
私たち現場の専門職が、もう一歩踏み込んで「座る姿勢=生活の質」を守っていけるよう、これからもシーティングの重要性を発信していきたいと思います。
